尾瀬(6回目)

燧ヶ岳の北斜面に広がる樹林帯、知られざる魅力を確かめようと思い続けていました。
燧ヶ岳の北斜面の水を集めて落ちる渋沢大滝。秘境の雰囲気に満ち溢れた、去り難い空間に一人身を置いていました。

約束の場所に、今・・・

@期間 2003/10/18〜19(1泊2日)
A同行者 なし
Bアプローチ 行き:野岩鉄道・会津高原駅よりバスで御池へ

帰り:小沢平よりヒッチハイクで桧枝岐へ、バスで会津高原駅へ

Cルート 第1日:御池[1510m]−上田代[1620m]−天神田代[1530m]−渋沢大滝分岐[1170m]−渋沢大滝[1280m]−渋沢大滝分岐−渋沢温泉小屋[1060m]

第2日:渋沢温泉小屋−小沢平[950m]
(地図記載以外の標高は、等高線より読み取っているため、不正確です)

最高点:燧裏林道上田代・標高1620m,難易度:☆☆★★★

D天候 第1日:晴ときどき曇

第2日:晴

E所要時間 第1日:約4時間(歩行+休憩時間)

第2日:約1時間45分(歩行+休憩時間)

Fポイント ・発端は、8年前にさかのぼります。燧裏林道を貫くように横切る渋沢に強い印象を受けました。双耳峰の鞍部に源を発した土石流の通り道、余りにも無機的な枯れ沢の姿を見てのことです。下流に神秘的な滝があることが、信じられませんでした。

5年前に平ヶ岳に登ったとき、下台倉山から燧ヶ岳を眺めました。山腹に広大な樹林帯が見てとれました。北斜面には濃密なエリアが広がっていることを感じました。辿り着きたいけど、辿り着けない、そんな印象を持ち続けていました。

・やがてブナの森に本格的に入るようになって、この偉大なる樹林帯は憧れではなく、「この目で確かめなければならない存在」になっていました。新緑の季節、真夏の時期を経て、ようやく踏み入れることが決まりました。

・会津高原駅で下車。そこは、ひんやりとした空気に包まれていました。快晴、山の斜面は紅葉が始まっていました。思えばここ1ヶ月、冴えない日々が続きました。体調の悪さに加えて、自分だけではどうにもならないような心の中にあった鉛が、この景色を目にした瞬間に吹き飛んでいくのがわかりました。

・バスは徐々に高度を上げて、鮮やかな紅葉に包まれた谷を行きます。小豆温泉から桧枝岐にかけてが最盛期でした。そこから先は、高度を上げるにつれて季節が進み、木々が冬支度を済ませた御池に下り立ちました。

燧裏林道を歩き出しました。樹林帯と小湿原を絡めて徐々に高度を上げていきました。やがて広大な傾斜湿原の上田代に出ます。遠く平ヶ岳を望み、青空には雲が流れていました。

・再び樹林帯に入っては、小湿原を交えて歩きます。徐々に高度を下げて天神田代。ここからは燧ヶ岳を望むことができました。頂に白いものがついていました。ここで右折して、渋沢温泉小屋へと下りにかかりました。

・最初はぬかるみの多い緩やかな下りが続きました。周囲はブナ林で、葉を落としていました。やがて葉をつけたブナが増えてきて、徐々に鮮やかさを増してきました。下り坂がきつくなると、行く手の谷間に向かって下りて行くのが見てとれました。

・沢音が現われ、小さな沢を絡めるようになります。ブナは一層鮮やかになってきました。大きな沢音が響いてくれば、渋沢大滝への分岐に着きました。左に折れて、渋沢大滝を目指します。

・すぐに渋沢の流れが寄り添ってきました。燧裏林道で見た姿とは全く異なる瑞々しさがありました。大きな岩が見えるのは、荒れ沢である証拠でしょうか。森は暗く、深く続きます。やがてトチノキの大木が林立するようになります。足元にはトチの実が信じられないくらい沢山ころがっていました。

・秘境の雰囲気に満ちた中、行く手に、水が落ちる動きを認めました。ついに、約束の場所に迫ってきました。引力を受けるように吸い込まれて行きます。自分ひとりだけに許されたような、そんな憧れの地が迫力ある音とともに、目の前に迫ってきました。

・もう夕方。深い谷間に陽射しは届きません。しかし、紅葉をまとった落差40mの素晴らしい滝が、今、目の前にあるのです。細かい飛沫を浴びながら、去り難い時間が続きました。辺りに暗さの兆しを感じて、ようやく立ち去ることにしました。何度も振り返りました。

・大滝の分岐から少し下れば、この日の宿である、渋沢温泉小屋が見えてきました。渋沢を渡って小屋に入りました。ご夫妻のもてなしに感激、お湯に浸かり、川魚とキノコ料理に舌鼓を打ちました。

・食後、外に出れば見事な夕焼け、素晴らしい山行の続きを約束しているかのようでした。沢音に包まれて眠りにつきました。

・雨上がりの朝でした。食事をとって出発します。目指すは小沢平です。上空を雲が流れ、谷間は陽射しが届いていません。湿った落ち葉を踏んで、まずは渋沢を渡ります。

・只見川の本流が迫ってきました。ひときわ大きな音が谷間に響き渡ります。小沢平へ向けて緩い下りが続き、足元の落ち葉は鮮やかさを残していました。トチノキが目立つブナ林を進みます。ふと足元を見れば、今年芽生えたと思われる幼木が紅葉していました。幼い夢も冬を迎えて一休み。また来年、大きく育ってと願わずにはいられませんでした。

・陽射しがさしこんできました。上空はまだ雲が流れているようで、時折パッと明るくなります。水平に近い道、オレンジ色のステンドグラス。見事なブナ林が続きました。

・只見川は寄り添っては少し離れます。しかし、せせらぎは、ブナの葉に反響していました。降り注ぐは黄金の光。これ以上望むものなどありません。ゆっくりと、そして休みをとりながら歩き続けました。

・予定のコースタイムをはるかにオーバーしていました。時間をかけすぎたような気がします。ずっとずっとこの雰囲気に浸っていたい。しかし、先を急がないと・・・ようやく枝沢を2本続けて横切りました。そこからわずかに歩いて樹林帯が途切れました。開けた場所、そこが小沢平でした。紅葉の鮮やかな山に囲まれた、清々しい場所でした。

・前の週でバスが終っていることは知っていました。こうなればやるしかありません。ヒッチハイクで車を拾おうと試みます。拾えなければ御池まで3時間の車道歩きが待っています。5台目くらいでやってきた福島ナンバーの車が停まってくれました。50代くらいの親切なおじさんが乗っていました。

・そのおじさんとは山の話を中心に盛り上がりました。カーブが増えてくると随所で紅葉の山肌を望むことができます。
「お〜、いい感じに染まっているねェ。どれ、ちょっと下りて写真を撮ろうか」
これはなかなか有り難かったです。バスだとこうはいかなかったので、願ったり叶ったり。
燧ヶ岳の北斜面、その中腹は全山燃えるようでした。

・御池を越えて七入まで下りてくれば、終点に近づきます。桧枝岐村の中心部に入ってきて、「燧の湯」で下ろしてもらいました。このあたりの山肌もまた、燃えるようでした。まだまだ時間はたっぷりありました。

・車を降りてから、ゆっくりと温泉に浸かって、名物の「裁ちそば」を食べて、バスが来るまで周辺を散策しました。

G総括 ・「すべての尾瀬の水が流れ行く場所」どうしても訪れたいエリアでした。特に、素晴らしいブナ林があると知ってからは強い憧れを持ち続けて、当初は新緑の時期を計画していましたが、ようやく実現しました。燃えるような紅黄葉の中を潜るように歩くことができて、大満足であるとともに、何度も訪れたいエリアになってしまいました。

・それは、おそらく、渋沢温泉小屋の暖かいもてなしが理由でしょうか?オーバーユース気味で登山客を泊めるのに精一杯の、主要部の山小屋とは異なり、心のこもった手料理がふんだんに出されました。前の週の3連休は予約で一杯で悔しい思いをしましたが、この週末は天候も良く宿泊客も少なく、却って得した気分です。

燧裏林道を横切る、枯れた無機質な渋沢とは異なり、渋沢大滝では瑞々しさを感じました。その理由がよくわかりました。燧ヶ岳の北斜面のブナ林が多量の水を蓄え、あちこちで染み出していたことが容易に想像できました。林道から大滝まで1kmに満たない距離の中で、あれだけの水を集めていることに驚嘆させられました。

・尾瀬の魅力は、広大な尾瀬ヶ原や、静かに水を湛える尾瀬沼にあることも勿論のことですが、それだけが尾瀬の全てではないことが実感できました。只見川はすべての尾瀬の水を集めて流れて行きます。それをこの目で見届けることも意義深いと思うのです。大きな沢音に心動かされた一つの理由が、そこにあったのかもしれません。

・なお、「すべての尾瀬の水」の例外として、桧枝岐川の流域があります。・・・かつてはすべての尾瀬の水はこちらに流れて、燧ヶ岳により流路が変わったらしい・・・。できれば、この流域である七入から沼山峠に抜けてみたい、そんな気を起こさせてくれる光景が広がっていました。考えれば考えるほど、歩くテーマが見つかってきます。やはり尾瀬は偉大です!!!

H気付事項 ・天神田代から渋沢温泉小屋までの道は明瞭ですが、人通り(?)はそれほど多くないようです。ぬかるみが多いのが難点ですが、燧ヶ岳の登山道に比べればマシでしょう。

・渋沢温泉小屋は他の尾瀬の山小屋と同様、予約制になっています。人が少ないから大丈夫だろうと思っていたら、満員だったりするので侮れません。星さんご夫妻のお人柄も慕われていて、リピーターも多いようです。

・小沢平のすぐ上には、渋沢温泉小屋に宿泊する人のための駐車場がありました。但し、5台分くらいでしょうか。小沢平にも駐車場があって、10台以上は停まれたと思います。

・小沢平のバス運行時期は、沼山峠行きよりも限定されています。事前に確かめることが大切だと思います。なお、3日前までに要予約となっているのですが、渋沢温泉小屋によれば予約なしでも乗れるということでした。ただ、念のため確認することは必要だと思います。

・尚、タクシーは桧枝岐村にはないとのこと。会津田島から上って来るので、かなりの出費は覚悟しなければなりません。また、尾瀬御池からタクシーで会津高原方面へ下りる場合も、電話で手配することになるようです(御池には予約車両の待機スペースがあった)

・御池〜小沢平間は、歩けば3時間程度と思われますが、車がかなり飛ばしてくるので要注意です。季節によっては路駐が多いので一層気をつけなければなりません。

※印の写真はクリックすると拡大表示されます。

広がる傾斜湿原の奥に平ヶ岳。雲がいい雰囲気でした。※クリックすると拡大表示されます。

※燧裏林道・上田代

うっすらと雪がかかっているのには驚きました。ここから右に折れます。

天神田代より望む燧ヶ岳の山頂部

高度を下げればブナ林が紅く染まっていました。※クリックすると拡大表示されます。

※染まるブナ林
(天神田代から渋沢大滝入口の間にて)

小屋の外に出てふと見上げたとき、明日を約束するような見事な夕焼けが・・・

渋沢温泉小屋から見る夕焼け

黄色く染まるブナ林が続いていました。※クリックすると拡大表示されます。

※ブナ黄葉の中、小沢平へと向かう

紅葉の山肌に囲まれたここの雰囲気も素晴らしかったです。

周囲が開けて、小沢平についた

 

アルバム「尾瀬の北側・奏でる晩秋のシンフォニー

 


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