姫神山

長い間、不思議な魅力を感じさせる存在でした。北東北の春を探しに向かいました。
姫神山の頂は抜群の解放感。残雪を頂く岩手山が目の前に、そして眼下は春を迎えた北上川の盆地が広がっていました。

残雪の岩手山と八幡平(姫神山頂より)

@期間 2004/5/6(盛岡前泊、日帰り)
A同行者 なし
Bアプローチ 行き:IGR銀河鉄道線(旧東北本線)好摩駅より一本杉登山口へタクシー

帰り:城内登山口から白沢集落まで歩き、タクシーピックアップでIGR線渋民駅へ

Cルート 一本杉登山口[550m]−五合目[730m]−八合目[900m]−姫神山頂[1124m]−城内登山口(石切り場)[460m]−山谷川目集落−姥沢集落−白沢集落

(注:地図記載以外の標高は、読み取った値です)

最高点:姫神山頂・標高1124m,難易度:☆☆★★★

D天候
E所要時間 約5時間(歩行+休憩時間)
Fポイント ・前から気になっていた山でした。まず、その名前に惹かれるものがありました。そして、岩手山との夫婦伝説、早池峰を含めた三角関係の話など、北の里に存在感を持って語り継がれてきた山であることを知るにつれ、登りたいとの思いを強くしてきました。

・この山の名前を冠したアーチストの存在も、その思いに一役買っていました。日本人の精神世界の根源を意欲的に追求し続ける音楽を産み出す存在でした。”早池峰”でも”岩鷲”でもなく、”姫神”と名づける理由を確かめたい気持ちが頭をもたげてきました。

・ガイドブックではこの山をたたえる記述が多く、ピラミダルな山容が目を引きます。桃ちゃんのパパさんの記録と写真に、”いつか登らなければならない山”との意を強くしました。しかし、北東北の地は遠すぎる・・・あの辺りの山行と結びつけて効率的に登ってみたい・・・一方で現実的に考える自分がいました。

・2002年6月、八甲田山に向かいます。盛岡から東北線で北に向かうと、そこにはピラミダルな姿が飛び込んできました。なだらかな、北上山地というよりは北上高地の名が似合う大地のうねりの一角が引き絞られて、天に続いているようでした。

・憧れは幾度となく去来しながら、実現のきっかけがつかめずにいました。その時々に、”今行きたい山”があったからです。その思いが引き出しの奥に眠りかけていたとき、今までにないほどの強さとなって復活してきたのです。安倍奥(八紘嶺〜七面山)の山行から帰ってきてからのことでした。

・前日の午後、盛岡へと移動します。東京は曇り空。仙台を過ぎるころから天気が回復しはじめて、夕方に盛岡に着いたときには晴天でした。さすがに北東北、ひんやりとした空気に包まれていました。

・目を醒ますと、朝日に照らされる街並みが広がっていました。快晴です。外に出ればピシッ、とした雰囲気に包まれました。なんと3.8℃まで下がっていたそうです。北上川に架かる開運橋に立って、残雪の岩手山を暫し眺めました。

・盛岡駅で北に向かう列車に乗ります。東北新幹線の延伸に伴ってJRが「IGRいわて銀河鉄道線」に変わっていました。2つめの滝沢を過ぎたあたりから、東側の車窓に広々とした風景が広がります。姫神山は広大な大地のうねりを従えるように、大きな裾野を引いていました。

・好摩の駅で下車して10分ほど待ったところでタクシーが来たので、乗り込みました。優美な裾野を少し登ったところに、一本杉の登山口がありました。

・朝日が射し込む林の中を登りはじめました。左手に雑木林が広がります。木々はわずかに芽吹いたところ。右側は所々に植林が出てきますが、まずまずの道です。かなり踏まれていることがわかります。

・無理のない緩登から左に曲がって尾根の末端に立ったところが5合目。周囲は完全に自然林となりました。樹相はダケカンバ林にかわってきました。樹林帯を中、少し増した傾斜を登っていけば、辺りにカタクリの花を見るようになります。所々に群落を作っています。

・8合目で向きを変えて、なおもダケカンバ林を登り続けます。ゴロゴロした花崗岩が目立ってきました。樹林帯を抜ければ、眼下に北上川が作り出す盆地が広がり、その向こうには待望の岩手山が惜しげもなく姿を見せていました。

・花崗岩をつかんでグイグイと、縫うように登りつづけました。城内ルートをあわせると、山頂はすぐそこでした。

・遮るもののない展望が広がっています。特に西の方には岩手山を盟主として、八幡平、秋田駒、さらに南西方向には和賀山塊も見ることができました。緑に染まる北上盆地と、残雪の山なみが好対照でした。

・そのうち飽きてきて、南の方に目を転ずると、緩やかな丘のうねりが続いていました。まさに高地という表現が合っています。しかし、早池峰は雲の中でした。南東の方角には岩洞湖が見えました。

・風は南から吹いてきますがかなり強くて体温を奪われます。のんびりと写真を撮っている余裕がなくなって、合羽を着たまま震えていました。雲がどんどん増えてきて、岩手山も隠れがちになり、山頂も陽が翳るようになってきました。陽射しが減ると寒くなってきたので、あきらめて下山を開始しました。

・今度は城内に向けて下ります。一本杉からのコースと違い、踏み跡が目立たない好ましいコースでした。

・最初に現われたのは、白い小ぶりの花・ヒメイチゲでした。続いて、カタクリが現われ始めます。こんな山頂近くに咲いているんだ。やがてダケカンバの潅木が続くようになります。芽吹いていない潅木の中を下り続ければ、所々にカタクリが群落となって咲いていました。

・なおもダケカンバの樹林帯を下りて行きます。カタクリは繰り返し現われました。スミレ類もたくさん咲いていました。やがて植林が絡むようになって、カタクリは姿を消しました。無理のない下りが続けばやがて傾斜がほとんどなくなり、かなりあっけなく石切り場のある登山口に着きました。本当ならここですぐにも終わるはずだったのですが・・・

・時刻はまだまだ11時を過ぎた頃です。タクシーに迎えに来てもらうことを考えていましたが、春が訪れたばかりの、気持ちのよい山里を歩いてみようと思ったのが、ケチのつきはじめでした。城内の集落へ続く道を歩き始めました。

・なだらかな丘のような地形の中を道が続いています。振り返れば、やがて姫神山の姿が少しずつ現われてきました。惚れ惚れするようなピラミダルな姿です。田んぼや畑が現われて、のどかな風景でした。

・くねくねと曲がりながら続く道です。方角はコンパスで確認しながら歩きますが、小刻みなカーブも多く、現在地が分かりにくい。余り無理はするまいと思って、タクシー会社に電話を入れました。現在地の詳細を聞かれて答えに窮してしまい、結局、城内のバス停で拾ってもらう約束にしたのでした。

・道なりに進みました。手に持っていた国土地理院の地形図(Web版をプリントアウトしたもの)を見ながら進むと、なんと、真新しい広い舗装道路が現われたのです。今思えば、ここで変だと思えばよかった。なんとなく方角があっているように思ったので、今度は舗装道路を進むことにしました。

・太陽の位置との関係、そして周囲の地形もなんとなく合っているようだと、どんどん舗装道路を進むと、どうもやはり方角が違うようだ、と感じてきました。しかし、自分がどこにいるのかわかりません。きっと、城内の集落に続いているに違いない。城内から姫神山へと続く道は、古くからの参道なので・・・思い込みにすがるような状況となってきます。それでも、このあたりだろうと考えた位置に地図と同じような向きのカーブが出てくるので、いいように解釈していました。

・しかし、次のタイミングで舗装道路は大きく曲がっています。やはりどんどんずれている。そう思ったとき、前方に集落が現われました。丁度昼飯時で、誰も表にはいません。ふと電柱を見たら、「山谷川目」という文字が飛び込んできました。ん?どこだ?地形図に目をやってすべてを悟りました。南西に行くはずが真南に進んでいたことを!

・そこは、ちょっとした沢地形になっていて、舗装道路はそこをまたいで続いています。やはり地形図にはない道でした。しかし、西に向かって流れる沢沿いに、古い道を認めました。その道に入って、西に歩きはじめました。

・現在地がほぼ特定されましたが、確信はもてません。ここを行けば「姥沢」という集落に出るはず。場所が特定できたら、タクシー会社に電話をして迎えに来てもらうことにしました。沢は清流が流れ、足元にはニリンソウが咲き乱れていました。北国の山里にようやく春が訪れていました。

・予想通り、姥沢集落に入りました。もう十分に歩いたので、タクシーで駅まで行こうと思って携帯電話をかけようとすると、なんと!圏外でした。そんなに深い谷ではないのに圏外です。再び焦りはじめました。

・なんどかけようとしても圏外です。姥沢集落を抜けて再び人家の少ない山の中を行きます。アンテナが立ち始めたと思って電話をかけてもすぐに圏外。歩けども歩けども圏外。もういやになってきました。こんなローカルな場所を東京から来た人間が一人で歩いている・・・なんとも情けない気分になって歩き続けていると、前方に白沢集落が見えてきました。

・ようやく携帯がつながりました。タクシー会社と連絡がついて、ついにタクシーがやってきました。タクシーに乗り込んだ途端に、全身を疲れが覆ってきました。石切場から7,8kmは歩いていました。

・タクシーの運転手が言うには、舗装道路は去年に出来たとのこと。姫神山から下りた人がやはり迷って、結局やって来なかったことがあるとのこと、色々と聞かされました。そこから15分ほどで渋民駅に着きました。遠くに姫神山のピラミダルな姿が聳えて、何事もなかったようなうららかな春の景色がありましたとさ。おしまい。

G総括 ・不思議な魅力を持つ山・・・その感覚は登ってからも続いていました。植林が少なく、比較的自然が豊かに残っている山だと思いました。決して山深くはない、それでいて広大な裾野を引く火山とも異なる山でした。うまくは言えないけど「味がある」山です。

・はからずも下山後に山麓を歩き回ったことで、このエリアの様子がわかりました。山深くはないけれど懐深い、その中におできのように突き出したのが姫神山なのかもしれません。やはり、ここに登るためだけに1日かける価値があった山でした。

・それにしても下山後の道迷いには参りました。土地勘がないことが理由で、素直にタクシーを石切り場に呼べばよかったのです。今回、昔のアルペンガイドと地形図を持って行ったのですが、前者だけでは広い範囲が網羅されていなかったので、地形図がなければ途方に暮れるところでした。その地形図も、前日に急きょWebをプリントアウトしたというわけで、反省点の実に多い山行になりました。(持っていた1996年のエアリアには姫神山が掲載されていないが、2004年のエアリアにはあります)

H気付事項 ・一本杉の登山口から少し歩いたところにある「一本杉清水」は、飲用不適とのことです。古いガイドブックには水場として示されていますが、やめたほうがいいです。一方、城内登山口の少し上にある「清水神社」の水場は、今のところ大丈夫だそうです。

・例年より雪が少なく、春の訪れも早かったので、雪は山頂付近にわずかに残るだけでした。場合によっては残雪に気をつけたほうがいいかもしれません。とはいえ、そんなに難儀するほどではないでしょう。

・山頂付近では花崗岩が積み重なっている場所もあるので、女性やお年寄りの方には少しばかりしんどいかもしれません。怪我に注意です。

・IGR線の好摩、渋民ともにタクシーがありますが、台数は少ないので念のため予約したほうが無難です。好摩駅から一本杉登山口までは車で15分ほどです。城内バス停からは、盛岡駅行のバスがあるようですが、詳細はバス会社まで問い合わせたほうがよいでしょう。

・盛岡駅を始発とするIGR線は、JRとは別のホーム(1階)から発着しています。JR(仙台方面から)との直通はJRのホームから出ています。

※印の写真はクリックして拡大表示できます。

ここまで登ると、まだ芽吹き前でした。

素性のよいダケカンバの木

三脚を持ってこなかったので、岩の上にカメラを置いてセルフタイマーで撮りました。

来てよかったと云わずにいられようか!

北上高地はなだらかなうねりをもって続いていました。

山頂から南の方角を望む

小さい純白の花が印象的でした。

ヒメイチゲ

まだ咲きそろっていないものの、色の濃いカタクリが沢山ありました。※クリックして拡大表示

※カタクリの群落

こんな感じの道が続く中を下って行きました。

ダケカンバの樹林帯

スミレサイシン?よくわかりません。

○○スミレ

城内登山口から少し歩くと背後に端整な姿が見えてきました。

見返りの姿

なんとものどかな風景ですが、ここまで歩いたかと思うと・・・汗、※クリックして拡大表示

※春浅い山村風景(白沢集落付近)

いつまでも眺めていたくなる山容でした。

車窓より姫神山

 


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