八甲田山
梅雨期の泊まり山行として、北東北の八甲田山を選びました。展望とお花畑を期待して・・・
@期間 2002/6/18〜19(前夜青森泊、山中1泊2日)
A同行者 なし
Bアプローチ 行き:青森駅前よりJRバスで酸ヶ湯温泉へ

帰り:仙人橋バス停よりJRバスで青森駅前へ

Cルート 第1日:酸ヶ湯温泉−仙人岱−大岳山頂−大岳鞍部避難小屋−上毛無岱−下毛無岱−酸ヶ湯温泉…(バス)…蔦温泉[泊]

第2日:蔦温泉周辺の沼めぐり−松森−赤沼−仙人橋バス停

(最高点:大岳山頂・標高1585m、難易度:☆☆★★★)

D天候 第1日:晴ときどき曇

第2日:晴ときどき曇

E所要時間 第1日:歩行時間・約4時間、休憩時間・約1時間15分

第2日:約5時間半(歩行+休憩時間)

Fポイント
(第1日)

・ここ数ヶ月、GW以外は土曜なしの状態でした。ようやく代休が得られました。しかし、季節は梅雨。失われた時は戻らない・・・思い浮かんだのは、梅雨の影響が少ない北日本。比較的楽でお花畑が楽しめる八甲田山に行くことにしました。

・新幹線と東北本線を乗り継いで青森に着きました。東京から5時間とかからずに行けてしまうなんて、便利になったものです。それでもやはり北東北。駅を下りたらひんやりとした風が吹いていました。一人旅の始まりを祝って、「田酒」で乾杯しました(^^)。

・さて、山行の第1日。青森駅前からJRバスで酸ヶ湯温泉まで登ってきました。晴天の中で酸ヶ湯温泉に下り立てば、温泉旅館の屋根越しに大岳が聳えていました。

・大岳へ向けて登り始めました。あたりはタニウツギのピンクに染まっていました。傾斜は緩く、ぬかるみを避けながら登って行きます。この傾斜は、尾瀬の燧ヶ岳に似てるかな?そういえば、那須火山帯の山って、どこもこんな感じだな。

・ムラサキヤシオも所々に咲いています。緩い坂を登っていくと、登山道脇からガサガサと物音が・・・用足しでもしてるのかなと思ったら、あちこちでガサガサと音がするのです。山菜採りの人が大勢入っていたのでした。

・ちょっと暑いかな。そう思いながらあるいていると、後方からガヤガヤと団体さんの声。振り返ると、紺色の野外服(?)を着た集団がぞろぞろと歩いている。自衛隊?しかもどんどん迫ってくるではないか。なんとなく鬱陶しいし、服を脱ぐついでにやりすごすことにしました。
「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」・・・
若い人たちでした。50人くらいいます。男性にまじって女性も何人かいました。それはそうと、身体は疲れてないけど、いちいち返事するのが疲れるなぁ・・・

・さて、再び歩き始めます。所々で樹間より南八甲田連峰の主峰・櫛ヶ峰の端整な姿を見ることができました。と、前方に休憩をとっている自衛隊(ではなくて本当は警察学校だった)を発見。近づくと「道をあけて」の教官の声が。仕方ないので通過すると、
「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」・・・
そんな紺色の長袖の服で、そちらこそお疲れ様ですねェ・・・

・やがて広葉樹林帯を過ぎて、火山ガスで裸地化した「地獄湯ノ沢」にかかります。鼻をつく硫黄臭。あ〜、これってまさに那須火山帯だ。ガレ場の登りを過ぎて少し疲れが出たので腰を下ろしたらほどなく警察学校連がやってきました。
「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」・・・
あー、ホント疲れるよ・・・(トホホ)。女性から声が掛かったときだけ返事したけどね。

・再び歩き出し、沢沿いに登っていくと残雪が現われました。さらに歩けば、広々とした湿原の仙人岱に着きました。ヒナザクラがたくさん咲いていました。湿原の中央に休憩所があり、警察学校連中に囲まれて休むことになりました。そこに湧き出ている「八甲田清水」は噂にたがわぬ名水でした。冷たくて美味しかった。

・仙人岱を後にして大岳へ向けての登りにかかります。雪田を越えてから急登が始まりました。背後に南八甲田連峰のパノラマが顔を出します。西には岩木山が”山”の字の形そのままにポッカリと浮かんでいました。

・警察学校の人たちと相前後しながらの登りが続きます。
「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」・・・
もう、省略していいよね。お互いにわかってるからさ・・・

・大岳の斜面は広大なお花畑です。チングルマ、コイワカガミ、ショウジョウバカマ、ミツバオウレンなどが次々と現われます。最後のやや急な傾斜を登りきったところが大岳山頂でした。ここでは、ミヤマキンバイが群落を作って咲いていました。

・山頂からは間近に田茂萢岳、赤倉岳、小岳、高田大岳、硫黄岳などの北八甲田連峰と、櫛ヶ峰を目立たせた南八甲田連峰が見渡せました。東の方は雲海に敷き詰められていましたが、北の陸奥湾がかすかに認められました。岩木山は時折雲の間から顔を出していました。特に寒さもなく、心地よい風が吹いていました。

・北八甲田連峰の火山地形もまた興味を引きました。大きな根張りをもった山体の上に幾つもの円錐火山が頭をもたげています。特に、地図上でもきれいな円錐形を示す高田大岳は、この目でみてもお見事というしかありません。所々に噴火口の窪地が見られ、往時の火山活動に思いを馳せました。山腹には湿原をからめたアオモリトドマツの高原が展開していました。

・山頂には、平日なのに結構な数の登山者が休んでいました。広い山頂には後から次々と登ってきました。昼食をとってから下山にかかりました。

・少し急な雪渓をキックステップで下れば大岳鞍部避難小屋。食事をとっている警察学校連を尻目に、毛無岱方面へ下りていきます。アオモリトドマツの茂る展望のない下りを抜ければ、上毛無岱の湿原に出ました。

・ミズバショウは大半が花期を過ぎて巨大化していましたが、一部に咲き残りがありました。そして湿原に一面に咲き誇っていたのがチングルマ。所々にヒナザクラの群落も見られ、池塘にはミツガシワが咲き始めていました。イワイチョウも見られます。

・上毛無岱を抜けて一段下れば下毛無岱。ここでもチングルマが満開でした。湿原は途切れたかと思うと再び展開しました。休日は混雑するのでしょう。平日に一人で歩くこの開放感がたまりません。

・下毛無岱を抜ければ、ブナ林の新緑シャワーが待っていました。相変わらず緩い下り坂を歩き続けます。ムシカリ(オオカメノキ)がまぶしいほどにあちこちに咲いていました。足元にはオオバキスミレを見ることができました。

・傾斜が緩くなるとぬかるみが現われました。やがて、車の音が聞こえて、まもなく酸ヶ湯温泉の屋根が見えてきました。

・酸ヶ湯温泉に下山し、待望の温泉に浸かります。なかなかディープな硫黄泉です。お湯を口にすると、本当に酸っぱい!身体の芯から温まるような感覚でした。

・温泉から上がれば、この日の最終目的地へ向けてバスで移動。酸ヶ湯温泉に入る直前に予約した蔦温泉は、十和田湖方面に下った標高500mほどのところ、ブナ林に囲まれたなかにひっそりと建っていました。

・蔦温泉は酸ヶ湯と違って単純泉。浴槽はブナとヒバの板張りでした。心が落ち着き、疲れが取れる感覚でした。

 

※印のついた写真はクリックして拡大表示できます

酸ヶ湯温泉から仰ぐ大岳

樹間より望む櫛ヶ峰

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※大岳への登路より硫黄岳、南八甲田連峰

大岳への登路より岩木山遠望

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※大岳山頂から高田大岳、小岳を望む

上毛無岱より下毛無岱を俯瞰

 

タニウツギ

ショウジョウバカマ

ミヤマキンバイ

ミズバショウ

チングルマ

ヒナザクラ

ミツガシワ

オオバキスミレ

 

(第2日) ・自然に目が覚めると、午前6時。窓の外は霧に包まれていました。午前中は沼めぐりをして、さて午後はどうしようか?あーでもない、こーでもない、といろいろな計画を考えていましたが、
”ここは沼めぐりに時間のすべてを費やすことにしよう”
そう考えると気が楽になりました。やがて霧が晴れて陽光が強く降り注いできました。

・好ましい雰囲気の蔦温泉旅館を後にして沼めぐりの探勝路を歩き始めると、背の高いブナ林が広がっています。沢のせせらぎ、野鳥のさえずり、ハルゼミの鳴声、吹き抜ける風、そして新緑のステンドグラス・・・急ぐ必要のない時間が用意されていました。

・所々に太い幹のブナが現われます。スラリと背の高い色白美人。雪国に特徴的なブナです。ブナに混じってトチノキやミズナラの大木も見ることができました。足元には見事なシダ類の群落が見られました。

・菅沼、長沼、月沼、鏡沼、蔦沼と探勝路をほぼ一周しました。やはり、これだけでは満足できない。時間もあることだし・・・。蔦沼から月沼へと戻り、ここから赤沼へ向けて山道に踏み入れました。

・そこには、探勝路よりもはるかに濃密なブナの原生林が広がっていました。道は緩く登っていきます。足元はササが茂り、踏み跡がまばらな場所もありました。

・薄暗く、見通しは全く利きません。立ち枯れのブナの大木が現れると、その周囲だけが天窓のように明るくなっていました。立ち枯れたブナにはサルノコシカケが生えていました。

・ブナの立ち枯れ・・・ふと思いました。丹沢で頻繁に見られる立ち枯れた姿を。林床のササに勢いがない中にヌーッと立つ幽霊のような姿・・・。酸性雨や温暖化が原因とも言われていますが、ここで見かける立ち枯れた姿は、丹沢とは違って、蔓植物に絡まれ、キノコにびっしりと覆われた”賑やかな”様相でした。

・素人は疑問を持ちました。ブナはいつ一生を終えるのか?その答えはすぐに見つかりました。葉を茂らせたブナの大木にキノコが生えている姿、一部が枯れているその大木は、勢いをなくしたところをキノコに侵食されている姿そのものでした。(当たり前のことだと笑わないで下さいね)

・原生林の中の道が緩やかに登りながら続きます。登りついたところが”松森”という名のピークでした。キタゴヨウマツの樹間から高田大岳が望まれました。松森から先、緩やかに下って行くと、鏡のような赤沼の水面が見えました。

・探勝路の分岐から1時間半余り。辿り着いた赤沼のほとりで腰を下ろします。対岸の向こうに赤倉岳が聳えています。湖面を渡る風が涼しい・・・鏡のような水面がさざ波を立てました。

・太古からの変わらぬ姿が目の前にありました。そこに約束されたようにやってきた自分がいることが信じられないようで、すべてが澄み切ったこの世界にいつまでも身を置いていたい、時を止めて・・・そんな気分に浸りながら、目の前の光景を飽きもせずに眺め続けていました。ほかに訪れる人の全くない、自分だけの時間でした。

・青空を雲が流れます。陽射しが遮られると湖面は深く沈んだ色となり、再び雲間から陽射しがもれれば湖面はキラキラと幾重にも光を反射させました。

・振り返ると、これから下る方向にも青々としたブナ林が広がっています。ようやく腰を上げて歩き始めました。新緑のステンドグラスが仙人橋のたもとの十和田ゴールドラインまで続いていました。

・車道に下り立つと強い陽射しが照りつけました。仙人橋のバス停でバスを待ちます。蔦川の水面がキラキラと光を反射するのを見下ろしていたら、旅の終わりを感じました。満足感と寂しさに包まれていました。夏至間近の昼下がりのことでした。

 

※印のついた写真はクリックして拡大表示できます

蔦温泉

ブナ林の中、探勝路を行く

ブナを仰ぎながら

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※鬱蒼としたブナの原生林

どこまでも続くブナの原生林

林間に咲いていたヤマツツジ

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※赤沼と赤倉岳

 

 

G総括 ・亜高山帯から高山帯に展開する火山地形に湿原と針葉樹林帯、一方で山腹に展開する鬱蒼としたブナ林。二つの違った表情に接して、八甲田山の魅力を十分に堪能した山行となりました。以前から計画していたわけではなく、ふと思いついたに近い状態でしたが、大満足で心洗われた山旅でした。

・火山の雰囲気あふれる酸ヶ湯温泉に対して、ひっそりと佇む蔦温泉。対照的な2つの温泉に浸かったこともまたいい思い出となりました。

・八甲田山、十和田湖方面は、東北地方の中ではバス路線が発達している数少ないエリア。休日に行ってれば大混雑に遭っていたでしょう。平日に休みが取れたことで、より好印象の旅となりました。

・十和田湖、奥入瀬渓流方面は敢えて行きませんでした。2日目に蔦温泉周辺の散策に時間をかけることができて、かえってよかったと思っています。蔦温泉周辺の散策も、松森経由で赤沼まで歩くことで充実感が増しました。

・その赤沼の畔で何もせずにじっと佇んでいた1時間余り。なんとも表現しようのない、しかし、心の底からよかったと思える忘れられない時間となりました。近いうちに来るかわからないけど、きっとまた訪れるような、そんな気がしています。

・今、これを書きながら思いました。これって、東北の「ブナ帯文化」がもつ不思議な引力の仕業かな?と。東北の山行から帰ってくるといつも、他の山行にはない満足感が漂っているのです。「万物に魂が宿る」という表現がぴったりのような、あの感覚です。

H気付事項 ・八甲田山は有史以来の噴火記録はありませんが、噴気が活発なために活火山に選定されています。大岳山頂付近をはじめ幾つかある噴火口は、往時の雰囲気もなくひっそりとしていますが、山腹の酸ヶ湯温泉周辺に活動の中心があります。仙人岱下部の地獄湯ノ沢にも噴気がみられ、まぎれもなく生きている火山を実感できます。
なお、インターネットで調べた限りでは、最近の噴火は推定で3000年前。地質学的には昨日のようなものです。

・月沼から分岐する赤沼への登山道は、踏み跡は明瞭なものの途中に指導標がまったくありません。所々に分岐する踏み跡が見られますが、赤のペイントに従って道を選ぶことです。松森が近づくとコースは時計回りに方角を変えます。コンパスと地形図を使って現在地を確認した方がよさそうです。

・赤沼には流入する明瞭な沢がなく、周囲はブナの原生林に囲まれているとのこと。透明度が日本で第3位だそうで、この目で見て頷けるものがありました。天然のフィルターで清浄化された水・・・開発の手を入れることなく、いつまでもこのままでいて欲しいですね。

I余談 ・ブナに関する記述で見逃せないのが、nosakuさんのHPです。2001年の山行記の中、「青森の森」と「白神 自然への旅」で詳細に触れられています。綿密にまとめられた執念に感謝です。

・ブナ林の林床に生えているのは「チシマザサ」ですが、通称は「ネマガリタケ」。ネマガリタケの筍はこの地方の名産です。丁度、時期だったので、旅館などで口にすることができました。柔らかくてシンプルですが格別の味わいです。(「田酒」のおつまみにもバッチリですよ(^^)v)

・そのほか関連サイトです。
青森の自然(サブコンテンツの中の「八甲田山の植生」が興味深い)/JRバス東北のHP(青森−十和田湖線の時刻表記載)
なお、制作者のリンク承諾は得ておりませんm(_ _)m

 


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