涸沢、2008年10月3日〜5日
染まる涸沢カール
(10月4日) |
秋の染まる涸沢カールを見に行くことにした。やや早いタイミングではあったが、染まり始めの色彩豊かなカールを眺めて至福の時を過ごすことができた。Mackeyにとっては初めて見る秋の涸沢、一際印象深いものになった。
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第1日:10月3日、天候:晴のち曇
秋の涸沢は私にとっては7年ぶりのことになる。7年前、燃えるように染まる涸沢を目の当たりにして、震えが来るほどに心動かされたことを今でも憶えている。当初の予定では、お盆休みに歩き損ねた北アルプスの縦走を計画していた。そんなとき、「涸沢もいいな」との思いが頭をよぎった。そんなタイミングでMackeyから「涸沢に行ってみたい」の一言が来た。この時期を逃したらしばらくチャンスは来ない・・・心は決まった。
7年前に訪れた涸沢は10月6日、まさにその日に紅葉のピークを迎えていた。その後、温暖化の影響で紅葉は1週間ほど遅くなっているという。まだ早いかな・・・と思ったが、数日前に急激な冷え込みがあった。紅葉は一気に進むだろう。そんな期待を胸に10月3日、伊賀から車を走らせる。
平日でトラックの多い名阪国道や中央自動車道は緊張の連続だ。中央アルプスは雲を被っていて、天候が気になるが、松本で下りれば、北アルプスは問題もなかった。期待が高まる中、11時頃に沢渡に到着した。
上高地に着き、河童橋のたもとで腹ごしらえする。平日だが客は多く、都会の雑踏を思い起こさせる。快晴の空に穂高連峰が美しい。しかし、山頂に近い場所の紅葉は認められず、大丈夫かな?の思いが頭をよぎる。ここまで来たら行くしかない。残念だったのは、やがて穂高連峰の向こう側から雲が沸き立って、徐々に青空を覆いつくして曇り空に変わってしまったことである。
梓川の渓畔林をひたすら歩く。この日は横尾まで足を伸ばす。明神、徳沢を経由して、横尾までの道はつらくなる。でも、明日は涸沢の紅葉に再会できるのでなんとか頑張って、横尾山荘に辿り着いた。テン泊は体力の低下によりパス。今回は小屋泊だ。横尾山荘は予約制で、ゆったりと寝ることができた。風呂に浸かり、美味しい食事も頂いて、極楽である。
河童橋から岳沢を望む |
徳沢の風景 |
ノコンギク咲く梓川沿いの道 |
第2日:10月4日、天候:晴
外へ出れば空に雲がない。そして、前穂高岳の頂がモルゲンロートに染まっていた。青空の中で涸沢に再会できる。横尾大橋を渡って涸沢への道をスタートする。太陽は早朝の谷間には届かず、足元の草は霜をつけていた。やがて屏風岩を横に見る頃、太陽が射しこんできた。屏風岩に生えている草木はまだ一部を除いて青々としていた。
本谷橋まで来る。ここまでは順調だが、ここから始まる急登にペースはガクッと落ちる。早く紅葉に染まる涸沢を見たいと気が焦るが、Mackeyのペースが思うように上がらず、時折道を譲る。徳沢を出たと思われるペースの早い人も追い抜いていく。それでも、涸沢カールが目に入ると、遠目にも染まっていることが見受けられる。
励まされるように1歩1歩確実に登っていけば、屏風岩を回り込んであとはひたすら紅葉のカールを目指す。背後の展望も広がって、北穂高岳から落ち込む斜面の染まり具合と見事に調和していた。足元にミヤマアキノキリンソウが咲き残っている中、午前10時前に涸沢ヒュッテに到着した。
荷物を置いて、テラスへ。雄大なカールが染まっている。涸沢小屋の左上、ザイテングラートへ向かうトラバース路の下に広がるナナカマドの群落は、7年前は真っ赤に染まっていたが、今回は黄緑色から黄色、そして赤色とバリエーション豊富でむしろ繊細な配色をしていた。Mackeyは初めて見る涸沢の光景にひたすら感動している。
ひとしきりの撮影タイムの後、缶ビールを片手におでんをつまむ。これも涸沢ならではの楽しみだ。カールを見ながらのおでんは最高!そして見ているうちに光線の加減が少しずつ変化してきて、同じ撮影対象でも違う風景になってくる。おでんを食べ終われば再びの撮影タイムになった。まったりとした至福の時間を暫し過ごした。
***
僕にはどうしても行きたい場所があった。その場所へMackeyを連れて行きたいと思っていた。それは屏風の頭。紅葉に染まる涸沢を正面から見ることと、槍ヶ岳を頂点として横尾本谷へと落ち込む斜面が雄大なスケールをもって迫ってくる。常念山脈からの尾根の続きも認識でき、ものすごい浮揚感を味わうことができる。そんなわけで、昼前にヒュッテを発って、パノラマコースを、屏風のコルへと向かう。
涸沢カールに赤い屋根の涸沢ヒュッテが調和している。涸沢カールを背にどんどん行くと、やがて横尾本谷が視界に入ってきて、本谷カールのてっぺんに槍ヶ岳が頭を出し始めた。
ところが、以前は大したことないと思っていたパノラマコースが、意外と手強い。へばり付くようなトラバース道で、Mackeyが苦戦している。「ヒュッテにいればよかった〜」と恨み節。所々に岩がグズグズの場所もあって、緊張させられる。この緊張のルートは、屏風のコルの直下まで続いた。コースタイムの倍近く時間をかけてようやく屏風のコルに着く。
涸沢ヒュッテ周辺ではやや早いかな、と思われたナナカマドが、このあたりでは真っ赤に色付いている。そして、屏風のコルから眺める涸沢カールと槍ヶ岳は、見事に真っ赤な”額縁”に収まっていた。ただし、涸沢カールは湧き出した雲により翳っていた。槍ヶ岳にも雲がかかり始めていた。できれば、屏風の頭まで、せめて屏風の耳まで登りたいと思ったが、時間も気になってきたのでここで引き返すことにした。
ヒュッテへの帰り道も、こわごわトラバースを通過する。涸沢ヒュッテに戻ってからは、再びテラスでまったりと過ごす。しかし、太陽光はすっかり遮られ、写真を撮ってはみたものの、午前中のような輝きを取り戻すには至らなかった。
さて、割り当てられたヒュッテの部屋に戻ったところ、なんだか様子がおかしい。どうやら後から部屋に来た人と先に部屋にいた人との間でもめごとが起きているようだ。我々が着いたときには、ヒュッテのスタッフが仲裁に入ったところで決着したが、しばらくは気まずい空気が流れていた。ところが、夕食の時間になったとき、そのもめごとの原因の一つが、我々が先においていたリュックにあったらしいことがわかった。(実は我々の隣にいた3人組が部屋を間違えていたのが本当の原因だった)
夕食の時間、回転を早くするためにビールは禁止ということで、結局ノンアルコールで済ます。折角の涸沢に乾杯、と行きたかったが仕方ない。慌しく夕食を済ませたら、あとはもう寝るだけの雰囲気になってしまった。布団1枚に3人の配置だ。寝返りを打てない苦痛は久々だ。でも、それなりに眠ることはできたので、よしとするしかない。
前穂高岳のモルゲンロート |
屏風岩が迫る |
涸沢ヒュッテへ向けて登る |
振り返れば常念山脈が現れる |
ミヤマアキノキリンソウ |
北穂高岳を仰ぐ |
ナナカマドと前穂のシルエット |
涸沢岳に正対する |
横尾本谷越しの槍ヶ岳 |
トラバース岩壁の小さな秋 |
屏風のコル間近の紅葉 |
額縁の中の槍ヶ岳 |
ナナカマドと涸沢カール |
光と影のカール |
前穂北尾根 |
第3日:10月5日、天候:曇のち雨
朝起きると、青空が残っている。予報では曇りのち雨で完全な下り坂。最早、太陽は望むべくもなく、さっさと下山することにしていた。思ったよりも天気が持ってくれた。最終日に粋なはからいをしてくれたものだ。テラスはカメラの放列。ロケットのような三脚が立ち並ぶ。
日の出の時刻を過ぎた頃、東側の雲間から太陽光が射しこんで来た。カールの上半分がモルゲンロートに淡く染まった。しかし、それは一瞬のことで、光がカールの底に移動するその後を追うように、涸沢岳の先の方が翳りはじめて、やがて太陽光は遮られ、カールは輝きを失った。このあと、再び太陽光が当たる時間帯が10分ほどあったが、今度は高い雲が青空を覆い尽くしてしまい、高曇りの状態に。下山を開始した。
日曜日だけあった、ものすごい人数が下山している。やがて、渋滞になってしまった。なんとか雨が降り出す前に上高地に到達したい。しかし、足取りは思うに任せず、逆にスローペースによって荷物が肩に重くのしかかってきた。
いつものことだが、横尾から上高地までの平坦な11kmの道は苦痛だ。行きの期待に満ちた気持ちではなく、宴の後の寂しさ、テン泊装備ほどではないもののザックの重さはそれなりに感じる。足の筋肉よりも、足の裏の圧迫感が追い討ちをかける。空の雲は、徐々に厚さを増してきた。
徳沢を経て明神までやってきた。ここで嘉門治小屋に立ち寄って岩魚定食を頂く。たまにはこんなのもいいかな。しかし、ここで食事している人の半分以上は登山客ではなく、観光客だった。小屋を出れば、小雨が降り始めていた。いつも歩くルートではなく、梓川の対岸の道を上高地まで急ぐ。雨は少しずつ降り方を増してきたが、なんとか上高地までもった。運よく発車間際のバスに乗ることができた。
月曜日は休みをとっているので、この日の夜は松本宿泊。夜は本降りとなった雨の街を歩き居酒屋で打ち上げをして、翌日は松本城や縄手通りを散策し、のんびりと過ごす。雨は昼前に上がって松本城からの常念山脈を期待したが、裾野しか見ることができなかった。やがて雲が切れ始めたが、午後4時頃になって松本を後にし、高速に乗って伊賀までの道を走った。
束の間のモルゲンロート |
涸沢槍の下、奥穂へ向けて登る人々 |
最後の青空 |
振り返る涸沢 |
上高地間近、小雨に煙る岳沢 |
僕にとっては2回目の秋の涸沢であった。染まり具合はピークよりも多少早く、前回来たときの胸一杯に来る熱い思いに比べれば少しだけ冷めた自分がいた。
それでも、色彩豊かな染まり方はやっぱり「世界一の紅葉」と誇れるものを感じた。何よりも、こうして仕事をしている立場で、現役の間に再訪できるなんて思ってもみなかった。今度は、紅葉のピークの頃に訪れたい、と思うのは人間の欲望だろう。そして、出来上がった写真を目にしたとき、もっとカールの中をあちこち歩き回って自分にしか撮れない写真を撮りたいと思ってしまった。
Mackeyにとっては初めての涸沢の紅葉。これまでで最も印象的な紅葉山行になったそうだ。そういえば、最近の2泊以上の遠征は、Mackeyのリクエストした所が多いなあ・・・。今度は、常念〜蝶、槍ヶ岳など、自分が歩いていない山にも行きたいと思ってしまった。
2008.10.21. by TAKASKE
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