台高山脈・薊岳〜桧塚(1441m)、2007年6月16〜17日
陽射しあふれる明神平 |
ブナの森を歩き、山上の楽園でテント泊を・・・関西の山仲間とのオフ会で明神平を訪れた。明神平を基点に初日は薊岳方面を歩き、翌日は明神岳から桧塚までを歩きました。ブナの森にシロヤシオ、そして美味しいご馳走に夕焼け、満天の星空、素晴らしい山行を味わうことができました。同行のみなさん、ありがとう〜(^o^)ノ
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6月16日(土)、天候:晴れ
コース:大又林道駐車場−明神滝−明神平−前山−薊岳−前山−明神平(夕食、泊)
週間予報では直前まで悲観的な予報だったが、前日、回復の兆しが見えてきたことから決行とする。土曜日は晴れそう、日曜も悪くて小雨程度で済みそうだ。そして当日、快晴の空が待ち受けていた。
大又林道の駐車場に9時過ぎに到着。ヤッホー隊の3名(まむさん、ユコリン、ぶんちゃん)と奈良のさとやんと合流し、歩き始める。ゲートの所で「気合だ!」の掛け声を入れ、やがて山道に。まだまだ新緑の名残で、降り注ぐ光が目にやさしい。沢沿いの道が続き、マイナスイオンを浴び続ける。
お約束の明神滝で休憩。久々のテント装備でザックが重いが、あちこちで写真タイムをとるので、助かる。
澄んだ水辺を登る |
見上げる緑の光 |
明神滝を見ながら |
明神滝から先、ベンチまでがややきつい登りだが、そこからは九十九折れの緩い登りとなる。待望のブナも現われてくる。水場で喉をうるおして、明神平のテン場についた。梅雨の中休みで青空が広がる。ほとんど快晴の状態だ。昼食をとって、テントを張って、身軽になった状態で薊岳へ向けて出発した。
この花の名は? |
薊岳が見えてくると明神平は近い |
梅雨の中休みで青空が広がる |
昔、スキー場だった草原を登っていく。右に折れて前山へ。ここから先はブナの樹林帯を行く。思いの外、アップダウンが繰り返される。ブナ林の稜線の道が続く。花はほとんど見当たらないが、可愛いギンリョウソウが所々に生えていた。逆光に照らされて輝いているものもある。
素晴らしい樹林帯が続き写真を撮ろうとするが、どうしても平凡な構図になってしまうのが悲しい。とはいえ、少しずつ変化する林相を楽しみながら歩いた。気がつけば、歩いているのはいつも最後尾。まむさんも写真に熱心だし、ま、許されるかと思いながら皆の後を追った。
薊岳に着いてようやく展望が得られた。大普賢岳の鋭峰を目立たせた大峰の山々、その左には大台ヶ原まで続く台高の主稜線。紀伊半島核心部の重畳たる山なみが美しい。そして、北方にも西方にも山また山。これ以上ない展望に大満足だ。
緑の樹林帯を薊岳へ向けて |
ギンリョウソウも見られた |
薊岳山頂より(右奥は大普賢岳) |
台高の主稜線 |
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薊岳を後に明神平へと引き返す。来るときのアップダウンが、ボディーブローのように効いていたのか、歩くスピードが上がらない。特に、前山へ向けての急登には随分と苦しめられた。前山からは、陽射しが傾いた中、明神平へと下っていった。
奈良のさとやんは、用事があるために、日帰りで下山。残った5人で夕食タイムだ。ヤッホー隊による神戸牛のすき焼き、そして焼酎のお湯割りを飲んで、楽しいひと時を過ごした。
テン場の周囲に鹿が現われた。食料を狙っているのかな?食事を終えてしばらく経つと、西の空が見事な夕焼けに染まった。それはそれは見事な染まりようであった。あたりが暗くなると、あっという間に5人とも眠りについてしまった。
夜中、強風の音で目が覚めた。12時頃、テントの外へ出ると満天の星空だった。北斗七星やさそり座、夏の大三角に天の川と、明確に認識できた。新月のせいか、星明りだけがテン場を照らしていた。
夕刻、鹿が現われる |
夕焼けに浮かぶ薊のシルエット |
ますます鮮やかに染まった空 |
6月17日(日)、天候:晴れのち曇り
コース:明神平−三ツ塚分岐−明神岳−桧塚奥峰−桧塚−桧塚奥峰−明神岳−明神平−明神滝−大又林道駐車場
山で迎える朝は清々しい。夏至近く、既に辺りは明るい。久々のテン泊で、寝心地は今ひとつだったので、すぐには起きずにいると、隣のヤッホー隊のテントがさくさくと朝食の支度を始めたのがわかる。眠い目をこすりながら、パスタを作って食べた。
水汲みをヤッホー隊にお願いして、ようやく準備が追いついた。テントを残して、再びアタックザックで出発。前日のような快晴とはいかず、雲が流れている。陽射しは射し込んだり雲に遮られたりとめまぐるしい。しかし、三ツ塚分岐への最初の登りが清々しかった。
三ツ塚分岐から明神岳へ。朝のブナ林を行く。いつ見てもスッキリとしたブナ林で、木の幹が朝日に照らされる姿が素晴らしい。
三ツ塚分岐へと向かう |
朝の明神岳のブナ林 |
桧塚へ見事な樹林帯の中を行く |
明神岳から桧塚へと向かう。下り坂が続き、一段と原始的な姿をしたブナ林が展開するようになる。ブナばかりではなく、カエデも見られて鮮やかな緑色に染まっている。前日の薊岳や、以前に歩いた笹ヶ峰よりも鬱蒼としていて、異空間に迷い込んだ気分だった。踏まれてはいるが、傷めつけられたところのないゆるいアップダウンが続いた。
そのとき、予想もしなかった花の姿を目にする。シロヤシオだ。桧塚奥峰に近づくに従ってシロヤシオが増えてきた。足元にほとんど散っていたが、花を多くつけている株も多く、まだ盛りのような姿も見ることができた。樹林帯はいつしか草原に変わり、所々に咲くシロヤシオの中、桧塚奥峰へと登っていった。
美しい樹林帯が続く |
北側の展望が開けた |
シロヤシオが残っていたのは |
桧塚奥峰の山頂一角にある展望地に立つ。目の前に桧塚が見て取れる。奥峰から桧塚までの稜線は草原状で牧歌的な光景が広がり、稜線の右側は谷間に向かって落ち込んでいた。見事なサラサドウダンの木が一本、目立っていた。
桧塚まではわずかなので、足を伸ばすことにする。北側、木屋谷からの尾根ルートを一人の登山者が登ってきた。明神岳へブナを見に来たという。尾根との合流から桧塚はすぐそこ。特に展望もないため、すぐに引き返した。
桧塚奥峰から桧塚を眺める |
桧塚奥峰のサラサドウダン |
奥峰を抜けて、再び見事なブナの樹林帯を通過する。陽射しは雲に遮られて、曇り空の下の樹林帯歩きとなる。他の4人から一人遅れをとりながら、ブナ林の写真を撮っていた。いかんいかん、皆を待たせすぎている。それだけ待たせた割には、暗くて手ブレの写真ばかりで、ここに掲載できる写真がなかった。f^^;
明神平へと引き返す |
再び見事な樹林帯を通過 |
最後の急登を終えると、台高主稜線の縦走路と合流し、明神岳に着く。あとはなんとなく惰性で歩き、三ツ塚は巻き道を抜けて、明神平のテン場へ下りていく。まだ9時半、朝の時間帯だ。ここで昼食とする計画もあったが、一気に下山することにして、テントを撤収した。曇っているが、まだ雨が降る気配はない。
登ってきた道をひたすら下る。見慣れた道で、残りの距離もわかっている。水場を過ぎてやがて九十九折れの道、ベンチを過ぎ崩壊地を慎重に通過すれば明神滝。順調に下っていくが、荷物が減ったとはいえテン泊装備で疲れが蓄積してきたのか、皆の口数が少なくなってきた。
最後の何度か沢を渡り返すところが、踏ん張りが効かなくなってきた。なんとか最後の渡渉を終えて登山口に辿り着く。しかし、そこから先の林道歩きがつらかった。ようやく駐車場まで来た。12時を回ったばかりで、ここから車で「やはた温泉」へ。温泉に浸かり、温泉に隣接した「ふるさと村」で美味しい昼食をとってから、解散した。
沢沿いはガクウツギの群落 |
林道に咲くコアジサイ |
梅雨の合間にもかかわらず、天候に恵まれたテン泊山行となった。楽しいネット仲間との時間を過ごすことができ、景色と味覚に大満足。本当に充実した2日間となった。
この山行で素晴らしいブナ林と再会し、特に明神岳から桧塚奥峰の間の林相の美しさに感動した。しかし、一方で衝撃的な現実も目の当たりにした。
初日、薊岳へ向かう中、なんとなくブナの葉が色褪せている気がした。あるときMackeyの背中に青い虫が付いているのを発見した。見上げた視界に飛び込んできたのは葉を食い荒らされたブナの樹であった。よく見ると、そこかしこに丸坊主の樹があった。そして幹を見るとおびただしい数の幼虫がよじ登っていた。生きるための執念すら感じた。じんましんが出そうな光景だ。また、辺りは雨が降るようなポツポツという不思議な音が響いていた。糞の落ちる音であった。
虫食いの被害にあったブナ |
無数の虫がよじ登るブナの幹 |
ブナの葉を食い荒らす害虫の存在・・・聞いたことはあったが、まさに目の前で展開されている光景はショッキングであった。素晴らしい台高北部のブナがやられていることに、喩えようもない不安がよぎった。虫食いのブナは、薊岳から桧塚までの至るところで見られた。
この大規模な虫食いの原因について、幾つかの情報を得た。
その1:ブナアオシャチホコ
北東北の八甲田や八幡平で約10年周期で大発生する蛾の幼虫。初夏に羽化する蛾で、ブナの葉に卵を産みつけ、数週間で孵化した幼虫は食欲旺盛で大発生するとブナを丸坊主にする。ブナ林の中では、ブナアオシャチホコが落とす糞で雨が降るような音がする。時として100ha規模のブナ林がやられ、盛夏に全山が茶色く枯れている光景を目にするという。
幸いにも樹の勢いは衰えるものの、すぐに枯死することはなく、翌年には葉にタンニンを多く分泌させて自己防衛反応を示すという。この自己防衛反応と天敵が集まることにより、ブナアオシャチホコは1〜3年で数を大きく減らすそうだ。その密度変動は実に、1万倍にも及ぶ。これが自然のサイクルらしいが、大発生時に台風が来襲すると倒木により集団枯死することもあるという。
その2:ブナハバチ
丹沢山地で1993年の大発生が確認されたのが最初で、97、98年と連続して発生。新種のハチとして認定されて10年に満たないそうだ。春に成虫が、ブナの新芽に卵を産みつけ、幼虫は新緑のブナを丸坊主にしてしまう。6月頃に大発生するが2週間ほどで地中に潜り、姿を消すという。丸坊主になったブナは夏に再び芽を出すこともあるそうだ。
台高でも3〜4年おきに大発生していたようだ。しかし、翌年には元通りのきれいなブナ林が復活しているとのこと。気がかりなのは、丹沢では稜線上のブナ林の衰退が著しく、ブナハバチの食害が一因との見方もある。長年にわたって繰り返されてきた自然のサイクルなのか、近年の環境の変化により大発生している害虫なのか、答えはもうしばらく様子を見ないとわからないだろう。
どうやら、今回の食害の原因は後者の可能性が高いようだ。今回の現象は皆さんにとってもインパクトがあったようだ。これから明神岳一帯のブナ林がどのようになっていくのか、とても心配である。ブナ林が生き続けることを願うしかないが、仮にそうであったとしても、残念ながら、今年の秋の紅葉が期待薄であろう。でも、これが現実、目をそらしてはならない。・・・やっぱり今回のブナ林の一番印象的な姿であった。
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