台高・明神岳〜薊岳(1432m)、2006年6月3日〜4日、天候:晴れ/曇り

第1日:大又−林道終点−明神平−明神岳−明神平(テント泊)

第2日:明神平−前山−薊岳−大鏡池−大又

台高山脈の中部にある明神平にテント泊して、明神岳から薊岳にかけて広がるブナ林を鑑賞した。初日は晴天の中、光の降り注ぐブナ林を味わった。翌日は霧に包まれた中、幻想的なブナ林を歩いた。

関西に来て、これだけのブナの美林を見るのは初めてのことであった。繰り返し訪れたい場所となった。今度は紅葉の時期に再訪したいとの思いを強くした。

 

 

← 霧にかすむ三ツ塚付近のブナの森

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(※長文ですので、写真だけでもご覧下さい。写真はすべてクリックすれば別窓で拡大表示されます。)

従妹からテントをもらった。スタードームの2,3人用である。ようやく自前のテントを持つことができるのはうれしいのだが、体力が落ちているのが心配だ。
それで、テント泊としてどこが適当かと考えていたら、台高の明神平付近に見事なブナ林があることを知った。明神平はのびやかな場所だが、一般開放されている小屋もないことから、テント泊しかできない。まさに、条件が一致したことから、梅雨入り前の山行として数ヶ月前から決めていた。

近鉄の榛原駅からバスで1時間10分。東吉野村にある終点の大又で下車する。山深い。大又川の流れが谷間に響いている。梅雨入り前だが6月。強い陽射しが降り注いでいた。
実は、谷間の林道から明神谷を詰めて明神平へ出るか、薊岳を越えて行くかで迷っていた。しかし、テントが収納されたザックを背負ってみて、この陽射しの中では薊岳を越えるのは無理と考えて林道ルートとすることを決めた。

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しばらくは舗装された林道を行く。林道なので日陰の場所が少なく、初夏の紫外線を容赦なく浴びる。途中の七滝八壷はさっと見ただけで先を急ぐ。林道の崖には、モチツツジやウツギにガクウツギ、それにユキノシタなどが見られた。

林道は徐々に勾配を上げていく。駐車スペースを過ぎて、一般車の行き止まりを抜ける。工事車両の専用道に入り、ますます斜度が上がって行く。陽射し降り注ぐ中で、テント装備を背負った身体にはかなり応えた。2時間余りを掛けてようやく登山道の入り口に着いた。ここで大休止、昼食をとった。

明神谷に沿って登山道が始まる。登山道の始まりはウツギが今を盛りと咲き誇っている。小刻みに沢を何度も渡ってから、やがて右岸をトラバース気味に登るようになると、行く手に滝が現われた。落差は30m程度あろうか。なかなか見事な滝で、地図に書かれていないのが不思議なほどである。

そこから再び沢を絡めて登り続ける。下山する人とすれ違うようになる。「上で泊まるんか、ご苦労さんねぇ」などと声を掛けられる。再びトラバースの道。自然林がどこまでも続き、新緑のシャワーの様相。ジグザグの道を登り詰めたところに、明神平の草原が広がっていた。そして、一眼レフカメラで写真を撮ろうとして、電池切れとなったことが判明した。こうして、せっかくのブナ林を撮る前に、一眼レフカメラは無用の長物と化してしまった・・・(ToT)

明神平は、バイケイソウが点々と見られるのびやかな草原で、青空の下、周囲の樹林帯も緑に輝いていた。その明神平にテントを仮設して、身軽な格好で出発する。目指すは、池木屋山方面にある笹ヶ峰だ。このあたりには素晴らしいブナの美林があるという。

 
長い林道歩きを経て沢沿いの登山道が始まる。 樹間より明神滝を望む。緑がまぶしい。 明神平はのびやかな草原。かもしか山荘が建つ。 明神平のカエデを主体とする樹林帯 ブナの葉を通して光が降り注ぐ

三ツ塚へ向けて徐々に高度を上げる。草原と樹林帯が入り組んでおり、このあたりはカエデも多い。ブナはまだまだ若葉の状態で、葉を透して緑色の光が差込んでいる。三ツ塚の辺りまで来るとブナが増えてきた。ここからは台高の主稜線を歩き始める。

稜線は緩くアップダウンしながら続いていた。尾根道は広くなったり狭くなったりしながら続いていたが、見事なブナ林が展開された。林床はすっきりとした丈の低い草があるだけで、よくあるスズタケの密生もない。森の主と呼ぶべき大木は見られないが、等間隔にブナの木が生えている林相が素晴らしい。明神岳は今回の山行で1,432mと最も標高が高い地点だが、稜線上のうねりの一部に過ぎない。ブナの木に括り付けられているプレートによって、初めて認識できたくらいだ。

明神平を過ぎると縦走路は踏み跡が目立たなくなってくる。徐々に下りながら、黄色いテープを頼りながら行く。尾根を外さなければよいので迷うことはない。素晴らしいブナの純林が続く。一眼レフカメラは無用の長物としてサブザックの奥に入ったまま、代わりにデジカメをMackeyと交代で使う。撮影ポイントには事欠かない。歩みが自然と遅くなり、足が止まることも頻繁になる。この調子では、笹ヶ峰までは行けないかな?時計を気にしながらの歩みとなり、引き返すポイントを探る。そして、少し低くなった、尾根の広くなった場所に着いたので、ここで小休止して引き返すことにした。

明神平に向けて引き返す。日が傾いてきているのがわかる。斜光線にブナの幹が浮かび上がっていた。片側に光が当たる姿がいい。来るとき見た景色と引き返すときに目にする景色がまた違うから、カメラが手放せない。どんどん日が傾いてくるのがわかるけど、歩みは遅いままである。Mackeyはじれたように先を行く。明神岳を越えて、三ツ塚はトラバースした。三ツ塚を過ぎたところで、シカの群れに出くわす。我々を見るなり一斉に逃げ出した。その数、30匹程度。このあたり、獣の雰囲気も濃い。

さて、ここまで来れば明神平は目と鼻の先。草原と樹林帯を交互に抜けて、明神平が見えてきた。草原とその向こうの水無山の緑が夕陽に浮かんで輝いている。明神平の「あしび山荘」(非公開の山小屋)がいい感じでアクセントになっている。なんとも言えないいい風景、この風景を目にしながら下って行った。

 
三ツ塚からはブナ林の尾根が続く 爽やかなブナの美林が広がる ブナの幹を見上げる 樹間より、台高と大峰の山並みを見る

やや立派なブナの木

どこまでも続く見事な林相 明神平へ引き返す。斜光線が幹に当たる 林床もスッキリしているブナ林だ。 眼下に広がる明神平へ。

水場で水を汲んで、夕食の準備にとりかかる。テン場にいたのは我々二人のほかに、おじさんの2人組と、学生っぽい人たち10数人であった。テントから少し離れたあずまやで夕食を作って食べる。風が吹いてきて寒さに震えながら食べた。食後は寒さのため、早々にテントにもぐり込む。学生たちのグループは騒いでいる。おじさん2人組は、酒を飲みながらしゃべり続けていた。そんな他のパーティーを尻目に、寒さもあって早々にシュラフの中に入ってしまった。

いつしか眠りについてしまっていた。目がさめると、酔っ払った学生は歌を歌って騒ぎ続けている。
”ヘーイ、ヘイヘイ、ヘーイ、ヘイ!”
とか
”リンダリンダー、リンダリンダリンダーー!”
なんてやってて、年不相応な歌を歌っている・・・というか、わめき散らしている。反対側からは相変わらずおじさんのしゃべり声が聞こえていた。
いつしかその声も遠くなり、再び目がさめたとき、今度は強い風の音とテントに叩きつける雨の音があった。学生の騒ぎもおじさん達の声も消えていた。
風は時として、テントが浮き上がるように吹き付けていた。天気予報では、土日とも晴れの予報が出ていたけど、やっぱり山なんだなぁと思いながら、その後は起きているとも眠っているともつかない状態が続いた。
”夜が明ければ再び晴れるだろう。晴れて欲しい。”
そう思いながらも、
”ガスならガスで仕方ない。ガスのブナ林も雰囲気があるから”
と考えている自分がいた。そして、再び眠りに落ちていった。

*****

翌朝、テントの外から光が差し込んでいる・・・気がした。テントの中から外を見ると・・・しかし、辺り一面のガスが覆っていた。風は少し弱まっているようだが、しばらく様子を見ていたが晴れそうな予感がまったくない。淡々と朝食を食べて、淡々とテントをたたんで、無理のない時間に出発する。

まずは昨日と同じ三ツ塚へ向けて歩き始める。草原を抜けて樹林帯へ。美しい林相が続き、ガスが漂う。本当にいい雰囲気だ。最初はブナに混じってカエデも目立つ。葉の黄緑色がいい。そこから三ツ塚へ。ブナが濃くなる。霧の中、霞むブナの幹を望遠で露出を変えながら何枚も撮る。今日もカメラが手放せない。本当なら一眼レフがよかったのに・・・と、一眼レフを取り出して使ってみようとするが、うんともすんとも言わない。あきらめて、デジカメを手に歩く。

一旦下って再び緩く登ったところが前山。ここから、明神平へのショートカットルートを分ける。知らなかったが、三ツ塚付近の林相を見ることができたので、かえって幸いした。前山を過ぎて緩やかなアップダウンが続く。鬱蒼とした、というよりは、自然度が高いながらワイルドではなくスッキリとした林相のブナ林。微妙に変化しながら、ガスも濃くなったり薄くなったりしている。

今まで花がまったくと言っていいほどなかったが、所々にヤマツツジが現われてきた。そして、ごく限られた場所だったが、イワカガミが登場した。先日の湖北のイワカガミとは違い、ポツンと咲いていた。再びブナの稜線を行く。時折ガスが濃くなる。二重山稜の地形を抜ける。このあたりは密度も濃く鬱蒼とした雰囲気だ。「ブナ太郎」はどこにあるかと探しながら歩いている。目だって太く高いブナは見当たらない。どれも平均的な大きさだが、実に美しい。ここまでひたすらに続くブナ林に会えるとは正直思わなかった。

大きな根張りの薊岳に向かって明らかな登りが始まった。美しいブナ林はなおも続き、斜面の林床はバイケイソウが目に鮮やかだ。曇っていながら、林床が鮮やかな緑色に輝いていた。ゆっくりと登って行くと、稜線が狭くなってきてブナの樹林が切れた。それとともに辺りにシャクナゲの花が見られるようになった。薊岳の山頂に着いた。ここで一休み。思いの外時間がかかっていた。

薊岳からはコースの雰囲気がガラッと変わった。岩稜の地形を行くようになる。小刻みなアップダウンとなり、シャクナゲの間を抜けるように進む。シャクナゲの花はやや過ぎ加減だが、きれいに咲いているものや、紅いつぼみもまだ一部に見られた。しばらくは歩きにくいところを行き、再び尾根が広がり歩きやすくなる。右側に植林が見られるようになり、雰囲気のあるブナ林はついに終焉を迎えたように見えた。これと言った太い立派な「ブナ太郎」も今回は見られずじまいか・・・

植林帯が続くようになるが、時折自然林も展開する。ブナの木も所々に見えている。高度を徐々に下げて行く中、その木は現われた。幹に葉をたくさん纏った、おそらくはツルが絡まっている幹、太いブナだ。葉を纏っているので樹肌は見えないが、高さといい、枝の広がりといい、今回の山行では間違いなく「ブナ太郎」と言えるような十分な貫禄だった。「ブナ太郎」を見送りながら再び植林帯に入ってどんどん高度を下げると、やがて尾根が広くなってきて人が大勢休んでいる場所に出る。池が見えた。大鏡池に違いない。大勢の休んでいるおじさん達の一人が聞いてくる。
「シャクナゲはまだ残ってますか」
「まだ十分に咲いていますよ」
「オオッ!そうか!ヨッシャ〜!!」
一団から歓声が上がった。彼らは大又から登って、薊岳までのピストンに違いない。それにしても、彼らの無邪気な喜びようがあまりにもおかしかった(^_^)

 
霧の中、三ツ塚へ登っていく。 カエデの緑が目に映える。 前山のあたり 二重山稜のあたり、鬱蒼としたブナ林 ひたすら続くブナ林を行く

バイケイソウ敷き詰められた薊岳への登り

薊岳のあたりはシャクナゲが咲き残る。 この日一番の「ブナ太郎」

ここからはひたすら植林帯が続く中、下り勾配が増してくる。大又へ向けてどんどん下る。植林帯の林床にはポツンポツンとフタリシズカが咲いていた。ガクウツギも出てきて、静かだった林も再び賑やかになってきた。大又川の音が響き渡るようになってくる。最後はお決まりのように膝がガクガクとしてくる。東京にいたときの奥多摩のような急な下りではないのが救いだが、脚力が落ちている。最後のひとふん張りでズンズン下って、舗装道路へ。さらに下って大又川を渡ったところでバス通りに出た。

下界(といっても山間の村だが)も曇っていた。当初の予報が外れて曇りになったようだ。ちょっと残念だが、曇っていても雰囲気たっぷりの樹林帯を歩けたから大満足だ。大又川沿いに歩き続けて、15分ほどで「やはた温泉」に着く。大又川を渡った対岸にある廃校を利用した食堂に入る。宿泊施設もあるようで、村おこしで頑張っている。今度はここに泊まるのもいいかな、と思いながら食堂を出て、その後お湯に浸かってから、バスに乗った。自分たちが初めての乗客で、その後もほとんど乗客が来ない。ウトウトしてたら、榛原駅に近いところで、山の格好をしたおじさんおばさんがドドッと乗ってきて、超満員になってしまった。どこの山に登ってきたのだろうか?と思いながらも、素晴らしい樹林帯歩きを思い出して、ちょっとした優越感を持った。


関西に来てから、これだけのブナ林を見たのは初めてのことだった。本当に素晴らしいブナ林だった。驚くような大木はないが、林床がスッキリとしていて、そこそこの樹齢の木が生えそろっている。雰囲気のいい、まさに「美林」という表現がぴったりのブナ林だった。

明神平周辺もまた清々しく繰り返しテント泊をしてみたい場所となった。2日目は曇ってしまったため、明神平から眺める重厚な山容の薊岳をお届けできなかったのは残念だ。

今回は、梅雨入り前の、初夏の雰囲気残る緑の樹林を満喫した。次回は紅葉の時期に訪れてみたい。燃えるようなブナの紅葉に全山が染まる姿が目に浮かぶようだ。

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<その他見掛けた花>

登山口付近はウツギが花盛り 沢沿いに咲き残るラショウモンカズラ 沢筋にヒメレンゲも見られた 前山付近の林床にわずかに見られたイワカガミ 大又近くにひっそりと咲くフタリシズカ
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