鳥海山

東北地方を代表する秀峰に登頂する機会を待ちわびていました。
祓川から登ればほどなく賽ノ河原に出て、雪渓が広がっていました。目指すは青空に聳える七高山です。

七高山を目指して雪渓を行く

@期間 2003/8/16〜17(前夜象潟泊、山中1泊2日)
A同行者 なし
Bアプローチ 行き:JR羽越線・羽後本荘より由利高原鉄道・矢島を経て、タクシーで祓川へ

帰り:鉾立よりバスで

Cルート 第1日:祓川[1180m]−賽ノ河原[1320m]−七ツ釜[1500m]−氷ノ薬師[1800m]−七高山[2229m]−新山山頂[2236m]−鳥海山御室[2150m](泊)

第2日:鳥海山御室−(千蛇谷)−七五三掛[1840m]−御浜[1700m]−鉾立[1150m]
(地図記載以外の標高は、等高線より読み取っているため、不正確です)

最高点:新山山頂・標高2236m,難易度:☆☆☆★★

D天候 第1日:晴

第2日:晴のち曇

E所要時間 第1日:約5時間15分(歩行+休憩時間;祓川〜七高山)、約1時間半(七高山〜新山〜御室)

第2日:約3時間15分(歩行+休憩時間)

Fポイント
(プロローグ)
・「鳥海山ですよ・・・」
客室乗務員が優しい声で告げてくれました。札幌から羽田へ帰る飛行機の窓の外、秋雨前線の雲海の中に唯一、ツンとすましたような峰が姿を見せていたのです。強烈に迫ってきました。3年前の秋のことでした。

・そのとき以来、幾度となく目にしました。朝日連峰、月山、栗駒山、そして出張の飛行機の中から。しかし、計画は悪天候により度々変更されました。そして、今年の冷夏にまたかと相性の悪さを嘆きはじめたとき、天気予報が好転したのでした。迷いはありませんでした。

・雨の降りしきる東京を発って、山形新幹線、陸羽西線、羽越線と乗り継いで、象潟の宿に着きました。雲が切れ始めて、回復しつつあるのがわかりますが、海はまだ鉛色をしていました。鳥海山はまだ雲を纏ってわずかに姿を見せるのみ。小高い丘に登り、ふと見ると、キツネノカミソリが咲いていました。海に近いところにはハマナスも見られました。

・宿に戻れば夕食。この地方特産の岩牡蠣が出てきました。翌日の登頂の前祝にふさわしい味覚を堪能しました。あとは好天を祈るだけでした。

(第1日) ・目をさませば外は眩しい光が降り注いでいました。いかん!寝すぎた。慌てて起き出して、宿を出ます。鳥海山は端整な姿を見せていました。尖った双耳峰のような山頂から裾野のラインが徐々に角度を緩めて、今自分の歩いている場所に達していました。

・さて、普通の登山者はここ象潟から登山口へ直接入りますが、ここから羽越線で北上します。予定の列車には余裕で乗ることができました。鳥海山をバックに象潟の景勝地を列車が走ります。ここでのんびり写真を撮りたいな・・・眺めるのも飽きない山です。

・羽後本荘で由利高原鉄道に乗り換えれば、今度は北麓の田園地帯を走り抜けます。少しずつ姿を変えながら、鳥海山は視界に幾度も迫ってきました。こんなアプローチの仕方もいいな、そう思いつつ、心が高揚してきました。終点の矢島に着いて、迎えに来ていたタクシーに乗り込みました。

・青空の下、タクシーは山に向かって徐々に高度を上げて行きます。曲がりくねった道は、やがて深い森の中を行くようになりました。そこには見事なブナ林が展開していました。広大な中島台のブナ林のエリアなのでしょう。ブナ林を抜ければ、間近に雄大な山の姿が現われました。祓川に着きました。

・行く手に湿原が広がり、山腹に幾つもの雪渓を持つ秀峰が聳えています。まっすぐに伸びた木道は、その頂を針路にとっています。いよいよ高ぶる心を鎮めながら、第一歩を踏み出しました。静かな始まりでした。

・花が数多く咲く湿原を過ぎれば、緩やかな登りが始まります。最初の樹林帯をすぐに抜ければ、早くも雪渓が現われました。再び樹林帯を行きます。背の低い木が主体で、林床にはモミジカラマツやミヤマダイモンジソウが咲いています。

・仙台に住む老夫婦と相前後しながら登ります。彼らはチングルマを追いかけて、あちこちの山に登られてるとのこと。色々な花が登場して歓声を上げています。こちらも写真タイムが続きます。丁度ペースが合っていました。

・樹林帯を抜ければ賽ノ河原で広い雪渓が現われます。ゆるやかに登って雪渓を抜ければ再び樹林帯の登りです。相変わらず花が多いです。

・樹林帯が途切れれば今度は湿原です。イワイチョウ、チングルマ、ヒナザクラと個性的な白い花に彩られていました。写真タイムがなかなか終りません(笑)。相前後する老夫婦もご機嫌で、子供に帰ったような喜びようでした。

・少し登れば、御田と呼ばれる場所に出ます。斜面に雪田が広がり、その末端から水が染み出していました。イワイチョウとチングルマが密度濃く咲いていました。またまた老夫婦と一緒に。ビデオカメラを回しながら旦那さんがナレーションしていて、周りの人の笑いを誘っていました。本人曰く、ナレーションがあれば後々楽しめるんだって(^^)

・ここからは斜度がやや急になります。やがて横を流れる小沢が深くなって七ツ釜。そして少し登れば康新道の分岐に出ました。ゆっくり登ってきましたが、丁度よい時間になって昼食をとりました。

・実は、当初の予定では展望のよい康新道を選択することにしていました。そこで、丁度康新道から下りて来たグループにコースの状況を聞いたところ、足元が悪く小刻みなアップダウンがあるのでやめたほうがいい、とのコメント。そこまで言うなら・・・丁度ガスが絡んできたこともあって、素直に従うことにしました。

・康新道分岐からは雪渓が頻繁に現われました。時折ガスが湧いて、視界が利かなくなります。対岸の取り付きがわからなくなったりしますが、少し待てばガスが晴れるので安心です。

・最後の雪渓を抜けたところが氷ノ薬師。ここから斜度が増して、山頂へ向けての踏ん張りどころです。しかし、登山道は数多くの花が見られ、ヨツバシオガマやオヤマリンドウなどの色鮮やかな花も見られるようになります。幾度となく写真タイムを繰り返しながら登っていきました。

・なおも高度を上げていくと、ぐんぐん展望が開けて行きます。背後には鬱蒼とした中島台の樹林帯を認めることができ、北西に続く海岸線と、遠く寒風山を目立たせた男鹿半島も認められました。一方、行く手には七高山が覆いかぶさるように迫ってきました。

・舎利坂と呼ばれる急登が続きます。チョウカイアザミやミヤマアキノキリンソウやイワギキョウが登場します。更に七高山の山頂が迫って来れば、チョウカイフスマが現われました。憧れ続けた秀峰の頂が近いことを実感しました。

・康新道と合流して少しの登りで、ついに七高山に立ちました。新山の荒々しい溶岩ドームと、南側の展望が加わります。ひときわ特徴的な月山の姿も目に入りました。南西の日本海に浮かぶのは粟島のようです。

・行く手には外輪山が壁のように続いていました。雪渓を隔てた溶岩ドームの基部には、御室の小屋が認められます。外輪の壁のどこから降りればよいのか、パッと見ただけではわかりませんでした。

・外輪に沿って下っていくと、やがて御室への分岐が現われ、壁を下って行きます。うまい具合に道がつけられていて、どうってことありません。岩の隙間には数多くのチョウカイフスマが咲いていました。雪渓を過ぎて少し登れば、御室はすぐそこで、ザックを置いて新山を目指しました。

・溶岩の積み重なった中を、まるでジャングルジムを抜けるように歩き、ニョキニョキ立つ幾つかの岩塔の一番高いのに取り付けば、そこが標高2236mの新山の山頂でした。

・山頂からの眺めは不思議なものでした。周囲に岩塔がいくつか立っていて、それらの間から中島台の森や、男鹿半島や、日本海を望むことができました。日本海はそれでも、存分にその広がりを見せてくれていて、この山が如何に海に迫っているかを実感しました。

・山頂を後にして、胎内くぐりを抜けて、ザックを置いたところに戻ってきました。御室は目と鼻の先。受付をしていたら、鳥海山大物忌神社の神主さんが現われました。なんとなく、世俗の一部のように見えてしまいました。

・荷物を置いてあたりを散策。外輪と中央火口丘の間に千蛇谷が続いていました。少し下って雪渓の様子を見ようとしましたが、なかなか現われずに引き返しました。

・西の空は高層の雲(巻層雲)に覆われていて、期待した夕焼けはほとんどなし。千蛇谷の向こうに飛島を浮かべた日本海を望むことができました。薄暮に包まれ始めるようになると、日本海に漁火が浮かび上がってきました。憧れの峰への登頂の喜びをかみしめながら、床に就きました。

※印はクリックすると大きく表示されます。

端整な姿を惜しむことなく見せていました。期待が高まります。

由利高原鉄道から眺めた鳥海山

七高山の頂を目指して出発!クリックすると大きく表示されます。

※祓川から見た鳥海山

雪渓の先端にチングルマの群落が。奥はまだ花が咲いていました。クリックすると大きく表示されます。

※雪渓とチングルマ(御田にて)

康新道分岐を過ぎれば次々に雪渓が現われました。

ガス湧き上がる雪渓

七高山は近いようで遠い・・・

雪渓と七高山を背景に

岩陰に見事な群生が・・・クリックすると大きく表示されます。

※外輪の壁に見られたチョウカイフスマ

溶岩の塔がニョキニョキ。雲海の奥に北麓の展望。クリックすると拡大表示されます。

※新山から北方を展望する

壁のような外輪の右は千蛇谷へと続く谷間。遠く御浜が見えました。

御室から西方を眺める

水平線には雲がかかっていました。手前に見えるのは飛島です。

日本海と夕陽

 

 

(第2日) ・風の音で目が覚めます。下り坂の予報は当っていたのか・・・何度か寝たり醒めたりしながらも、それだけが気懸かりでした。何度目かの目覚めで窓の外が明るくなっていることに気付きました。晴天の空が目に入りました。しばらく経って再び外を見れば乳白色の世界が・・・ものすごいスピードでガスが流れていました。

・起き出して小屋の外へ出れば、強い風が吹き付けます。時折ガスが途切れると、そこは晴れた空が広がっていました。西から吹き付ける風に乗って、ガスが次から次へと湧き上がって来ました。

・やがて日の出を迎えます。ガスが次々に押し寄せる中、影鳥海を一目見ようと、西の方を眺めていました。ガスはなかなか途切れず、そろそろと諦めかけたとき、眼下の雲海に影鳥海の右半分が認められました。海に映す影ではなく、雲海に描かれた影鳥海でした。

・食事を済ませて出発。千蛇谷に向けて下って行きます。すぐに雲の下に出て、視界は利きます。しかし、頭上を覆い尽くすような雲の影響で、薄暗い世界が広がっていました。雨はふってきません。

・荒神岳を巻くように進んで行くと、千蛇谷の雪渓が視界に入り、そこへ向けて下りて行きます。雪渓は斜度が緩やかなものの、ツルツルしているところもあるので、迷わず軽アイゼンを装着しました。

・先を急ぐのには理由がありました。鉾立9:50発のバスに乗るためです。これを逃すと3時間近く待つことになるのです。あまり好きな歩き方ではないのですが、お盆休みの最終日、なるべく早い時間に帰宅するには仕方ありません。軽アイゼンのお蔭でスイスイと下って、あっという間に七五三掛の取り付きに出ました。

・外輪の壁をぐいぐい登って行きます。このあたりから上空の雲が切れて、明るくなってきました。振り返れば、山頂の方だけが湧き立つ雲を被っていました。

・外輪は稲倉岳を起こして馬蹄形に続いています。千蛇谷は徐々に北へと向きを変えて、広がりを持っています。それは自分にとって感動的な光景でした。谷を埋め尽くすような岩雪崩の生々しい痕跡に、火山活動の激しさを想像しました。そして、北麓に広がる中島台の樹林もまた、その岩雪崩の上に展開しているのが手にとるようにわかったからでした。

・七五三掛から先は、お花畑の中を行きます。御浜までの緩いアップダウンはまさに楽園でした。ニッコウキスゲにハクサンシャジン、タテヤマウツボグサ、トウゲブキなど、鮮やかな色の花々が数多く見られました。

・御浜は、火口湖と奇妙な溶岩ドームを見下ろす庭園のような場所。南面が開けて、庄内平野と海岸線が広がっています。振り仰げば、新山と七高山の”二つの山頂”が雲の間から姿を現してきました。太陽の光も降り注いで、思いの外いい天気になってきました。できればここにしばらく留まっていたい、そんな気持ちを抑えなければなりませんでした。

・御浜から鉾立へとコースを採ります。ニッコウキスゲが点々と咲く中を、幾分早足で下っていけば、登山者が次から次へと登ってきました。石畳に整備された道です。最もメジャーなコースなので、土砂流失を防ぐためには仕方ないのでしょう。

・窪地のようなところに出れば、「賽ノ河原」。ここから山頂は見ることができません。あとは頑張って鉾立まで下りるのみ。石畳の道は足につらい。早く終りたいと、早足になります。尾根のようなところを行けば、行く手に鉾立の駐車場と鳥海ブルーラインが目に入ってきました。

・再び雲に覆われ始めて陽射しがなくなります。駐車場は目と鼻の先まで来たとき、右側の視界が開けて奈曽渓谷の深い谷を望むことができました。登山道は遊歩道になって、観光客の姿も目立ってきました。そして、ついに鉾立の駐車場に下り立ちました。9:25のことでした。来たばかりのバスを下りた登山者が、登って行きました。

(エピローグ) ・鉾立を定刻に出発したバスは、わずか3人の乗客を運ぶだけでした。鳥海ブルーラインを延々と下り続けます。眼下に観音森の溶岩ドームと、日本海が見渡せました。

・そうです。下山した鉾立は、まだ、その膨大な山体の中では中腹に過ぎませんでした。大平を過ぎれば、やがて見事なブナ林が展開する中をバスは下っていきました。

・吹浦で海岸に出ました。ここもまた、鳥海山の山体の一部で、海底へと続いているのでした。バスが庄内平野に入れば、鳥海山の姿が再び現われます。山腹に幾つもの雪渓を抱えて聳える姿を、いつまでも眺めていたい気分になりました。

・酒田で特急「いなほ」に乗車します。庄内平野を南下する電車の車窓から見た鳥海山は、中腹に幾つもの雪渓を抱えながら、その山頂はいつしか雲に覆われていました。電車が新潟県に入るころ、雨が降り出しました。短すぎた今年の夏が、とうとう終わりを迎えたような気がしました。

G総括 ・3年越しの念願叶い、ようやく踏むことができました。スケールの大きな、そして魅力の詰まった山でした。一度はあきらめかけながら、直前の天気予報で山行を決めました。天が味方してくれたかのような、そんな2日間でした。

・魅力は幾つもありますが、予想以上に日本海が近い存在であったこと、火山地形が想像以上に顕著であったことに尽きます。また、花の種類も多く、行程中尽きることがありませんでした。

・火山地形の中で目を引いたのは、何と言っても外輪と北面に広がる岩雪崩の痕跡です。そして、岩雪崩の痕跡が山麓に広がる中島台の樹林帯に続いていることを知って、あのアガリコの森にいつか行って見たいと思うようになりました。

・そうです。今回は数多いコースのうちでたった2つを歩いたに過ぎないのです。この膨大な山をもっと知りたいと心から思うようになって、他のコースも踏んでみたいと思っています。鳥海山に繰り返し登られている桃ちゃんのパパさんのレポートを読んでも、今までは実感が持てませんでした。今回初めて登ってみて、自分の小さな器に入りきらないほどの魅力があることを知りました。

・今回は駆け足の山行になってしまいました。山麓の風景や味覚にもっと長い時間接することができたらと思っています。自分の足では厳しいかもしれないけど、もう少し早い時期に訪れるのもいいですね。

H気付事項 ・祓川では十分な量の水が得られます。そこから先は、必ずしも水が得られるとは限りません。七高山と新山の間に万年雪があって水が得られますが、雪渓の水には埃も混じっているようです。煮沸したほうが無難です。

・千蛇谷の雪渓を下る際には、行き過ぎに注意しましょう。ロープが張られている場所を越えることのないように。(それさえ意識していれば、大丈夫だと思いますが・・・)
また、外輪は小刻みなアップダウンと強風に注意する必要があるとのことです。

・七五三掛から千蛇谷へ向かうコースは、一部が崩落により架け替えられています。ロープが張られた先に踏み込むのは危険です。千蛇谷から七五三掛へと行く場合は、なるべく上の踏み跡を辿って、階段を目指すことです。

・関連の公共交通機関のサイトは以下のとおりです。
由利高原鉄道羽後交通庄内交通
なお、矢島からタクシーを利用する場合は、予約したほうがよさそうです。

・追加情報です。象潟町のHPには、鳥海山関連の情報が満載です。

 

※印はクリックすると大きく表示されます。

ガスが流れる中、七高山方向から光がさしてきました。

七高山からのご来光

雲が切れないかと見上げていたら、そこに七高山の陰が映っていました。

押し寄せる雲に七高山の陰が映る

海面ではなくて、雲海に映った影鳥海。しかも、右半分のみ。でも、満足です。

雲海に映った「影鳥海」

下ってきた千蛇谷を振り返れば、山頂付近は未だ雲の中でした。

千蛇谷を振り返る

生々しい岩雪崩の痕跡に感動。遠く中島台の樹林帯に続いています。クリックすると拡大表示されます。

※稲倉岳に続く外輪と、顕著な岩雪崩の痕跡

火口湖に溶岩ドーム。火山地形の見本市です。

鳥ノ海(御浜付近にて)

雲が切れて山頂が姿を見せました。クリックすると拡大表示されます。

※御浜から振り仰ぐ山頂

深い奈曽渓谷の奥に山頂が見えました。鉾立はすぐそこ。素晴らしい山との別れが近づいていました。

奈曽渓谷と山頂(鉾立付近にて)

アルバム「鳥海山で出会った花々」へ

 


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